ドニゼッティ 《愛の妙薬》第2幕よりネモリーノのロマンツァ*「人知れぬ涙」
Donizetti : L’ELISIR D’AMORE Atto secondo (Nemorino) “Una furtiva lagrima”
今回はテノールの代表的な一曲、ガエターノ・ドニゼッティ (1797-1848)が作曲した《愛の妙薬》から、「人知れぬ涙」をお届けします。
純朴で内気な村の青年ネモリーノは、農園経営者であるアディーナに恋をしています。ネモリーノはなんとか彼女を振り向かせようと、村に巡ってきた怪しい旅の薬売りのドゥルカマーラから、「これは恋に効く“愛の妙薬”だ」と安ワインを売りつけられては、それを信じて飲む始末。酔っぱらった勢いでなんとか彼女に恋心を告白しようとしますが、恋敵の将校ベルコーレの出現もあって、ネモリーノの行動は空回りするばかりで、なかなかうまくいきません。
実はネモリーノのことを憎からず思っているアディーナなのですが、はっきりしない彼の態度に業を煮やして、言い寄ってきたベルコーレと結婚すると言い出します。こちらはこちらで、相当な意地っ張り。
このドタバタ喜劇の終盤で、ネモリーノは、彼に金持ちの伯父さんの遺産が入ることを知った村娘たちから、突然チヤホヤされます。それをネモリーノは「愛の妙薬の効果だ!」とノーテンキに喜んでいます。
そんな様子を遠くから見てアディーナがひそかに涙を流していたのに気がついたネモリーノが、恋の成就が近いことを感じて歌うのが、この有名なロマンツァです。
そしてふたりがめでたく結ばれて、このオペラはハッピーエンドで終わります。
*ロマンツァRomanza:この時代のオペラでは、叙情的、感傷的な歌詞とメロディによる曲を作曲家自身が「アリア」ではなく「ロマンツァ」と記載している。
Una furtiva lagrima negli occhi suoi spuntò:
彼女の目からひそやかな涙がこぼれた
quelle festose giovani invidiar sembrò.
あの賑やかに騒ぐ娘たちを羨んでいるように、僕には思えた
Che più cercando io vo?
それ以上僕は何を望むというんだ?
M’ama, lo vedo.
彼女は僕のことを愛しているんだ、間違いない
Un solo istante i palpiti del suo bel cor sentir!
ほんの一瞬でも、彼女の純粋な心のときめきを聞くことができたら!
I miei sospir confondere per poco a’ suoi sospir!
僕のため息が、ちょっとでも彼女のため息と一緒になれたら!
Cielo, si può morir;
神様、死んだっていいです
di più non chiedo.
これ以上のことを僕は願いません
Si può morir d’amor!
愛のためなら、死ぬことだってできます!